丸屋 武士(選)
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 換言すれば、世界中どこに居ようとも修業者の目ざすところは、一つ一つの「わざ」についてスピード、パワー、巧緻性といういわゆる三大要素を日々強化、向上させることに尽き、その限りない努力と天賦の才能を兼ね合わせた者が競技人口何万人かの頂点に立って、名人芸、神技と呼ばれる「わざ」の持主となるのである。
       
 蛇足ながら付言すれば、背負い投げのようないわゆる担ぎ−かつぎ−技を得意とする者にとって、連絡技としての大内刈のような足技を磨くことが極めて有効であることを最高レベルで立証して見せたのが、アテネオリンピックにおける野村忠宏、谷亮子の両選手である。既に両者の背負い投げは名人芸の域にあって世界中に知られており、それ故にこそ、この両者がアテネで相手をまうしろに倒した大内刈の切れ味は世界数十万の柔道プレーヤーの眼底に焼きついたと思う。同時に、いきなりもぐりこんだり巻き込んだり、どちらかといえば変則的プレーヤーも少くない昨今の世界において、講道館柔道の王道を示したことも、この二人の功績として末永く記憶されるであろう。
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