丸屋 武士(選)
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   「・・・・・しかしながら、われわれがいかなる理想を追求して今日への道を歩んできたか、いかなる政治を理想とし、いかなる人間を理想とすることによって今日のアテーナイの大をなすことになったのか、これをまず私は明かにして戦没将士にささげる賛辞の前置きとしたい。この理念を語ることは今この場にまことにふさわしく、また市民も他国の人々もこの場に集うもの全て、これに耳を傾けるものには益とするところがあると信ずる。
 われわれの政体は他国の制度を追従するものではない。ひとの理想を追うものではなく、ひとをしてわが範を習わしめるものである。その名は、少数者の独占を排し多数者の公平を守ることを旨として、民主政治と呼ばれる。わが国においては、世にわかれば、無差別なる平等の理を排し世人の認めるその人の能力に応じて、公けの高い地位を授けられる。またたとえ貧窮に身を起こそうとも、ポリスに益をなす力をもつ人ならば、貧しさゆえに道をとざされることはない。われわれはあくまでも自由に公につくす道をもち、また日々互いに猜擬の眼を恐れることなく自由な生活を享受している。よし隣人が己れの楽しみを求めても、これを怒ったり、あるいは実害なしとはいえ不快を催すような冷視を浴びせることはない。私の生活においてわれわれは互いに制肘を加えることはしない、だがこと公に関するときは、法を犯す振舞いを深く恥じおそれる。時の政治をあずかるものに従い、法を敬い、とくに、侵された者を救う掟と、万人に廉恥の心を呼びさます不文の掟とを、厚く尊ぶことを忘れない。(中略)
 
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