丸屋 武士(著)
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紋章院の全景(背後に見えるのがセント・ポール寺院のドーム)
(1985/11 撮影)
  ロンドンの大火(1666年)によって全焼した紋章院の建物はその後1671年から1688年にかけて再建された。ロンドンはシティー(金融街)の近く、セント・ポール寺院の真近に位置する赤レンガ造りのこの建物は17世紀イギリス建築の特徴をよく伝えているとされ、現在も使われている。メアリー女王(4年間に300人ものプロテスタントを火あぶりの刑に処したことによって、ブラッデイ・メアリーとも呼ばれ、同名のカクテルがある)の特許状によって今日も役所として機能し、建物も300年以上使われているところが、いかにもイギリスらしい。  イギリスらしいと言えば、最もイギリスらしいのはここに勤務する紋章官の給料である。サマセット・ヘラルド(Someset Herald)以下3名は現在欠員となっていて、残る10人の紋章官の中で位の高い人が年俸49ポンド、位の低い人には年俸18ポンド弱が王室予算から支払われている。これはすずめの涙というか、交通費にもならない金額であるが、そこは、個人や団体からの紋章にかかわるプライベートなしかるべき相談料(professional fees)によって生活は成り立っているのであろうか。
  映画「女王陛下の007」において二代目ジェームズ・ボンドとして主役のジョージ・レーゼンビーが演じているのが紋章官(herald)である。物語の冒頭、優雅なキルトを身につけて登場するところ(長身のレーゼンビーにはスカート状のキルトとしゃれたハイソックスがお似合いである)を見ると、彼はスコットランドの紋章官であろうか。現在世界ではイングランドの紋章院(The College of Arms)とスコットランドの紋章事務所(The Lyon Office)のみが中世以来の紋章統括機関として存続しており、フランスやドイツ等ヨーロッパのどの国にもこのような機関は存在しない。
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