丸屋 武士(選)
(2003年1月)
 古代スカンジナヴィアの古老が言ったと伝えられる有名な言葉で、チュートン人の特性を遺憾なく表しているものがあります。「わしは偶像も守護神もありがたいとは思っておらん。わしが信頼しとるのは、ただ自分の体力と土性骨だけじゃ」。古代スカンジナヴィア人の紋章はツルハシで、そこには「道なくば道を造らん」という銘文が刻まれており、これは今日でも彼らの子孫の一大特徴となっているあの不屈の独立心を示すものであります。実際、古代スカンジナヴィアの神話の特性を最もよく表しているのは、ハンマーを手にした神が出てくることでしょう。一体、人間の性格というものは、さ細な事柄に現れるもので、ハンマーの振り回し方のようなちょっとした動作から、その人間の気力、体力がある程度推測できるのです。例えば − 一人の有名なフランス人は、友人が某県にある土地を買ってそこに住みつこうとした時、その土地の住民の特性を、ひとことでずばりと言い表しました。「その土地を買うのはよしたまえ。あの県のことは私が知っている。パリにあるうちの獣医学校の生徒で、あの県出身の連中ときたら、カナジキを強くたたかないんだよ。連中には力がない。だからあの土地で投資しても、ろくな収益は上げられないだろうよ」。いかにも思慮分別をわきまえている人にふさわしい、的を射た、見事な性格批判の言葉です。と同じにこの言葉は、個々の人々の活動力こそ国家を強大にし、耕作する土地さえも豊にするものである、ということを非常によく例証している言葉でもあります。フランスの諺にもあるとおり「土地からの収益は耕作者の努力に比例する」のです。このような努力の精神を養うことは何よりも大切で、断固たる決意をもって、しがいのあることを成し遂げようとする根性が、本当に優れた特性を築く土台になります。人はどんな境遇にあっても旺盛な活動力があれば、うんざりする骨折り仕事や無味乾燥な、くだくだしい事柄を切り抜けて、向上発展を期することができます。旺盛な活動家は天才以上のことをしてのけ、失望や危険に陥るようなことは決してありません。仕事のいかんを問わず、確実に成功するために必要なのは、非凡な才能よりも意志の力、つまり、勇猛心と不屈不撓の精神をもって、事に当ろうとする意欲なのです。したがって旺盛な活動力は人間の主要な力そのものである、と定義することができます。一言で言えば、それは人間それ自身なのであります。旺盛な活動力はあらゆる人を励まし、あらゆる行動に生気を与えます。そこから真の希望が生じ、そして希望こそは人生にふくいくたる香りを添えるものなのです。「バトル大聖堂」には一個の割れたかぶとが保存されており、それには紋章がわりに「希望はわが力なり」という意味のフランス語の題銘が刻まれていますが、この題銘は万人の処世訓としてふさわしいものでしょう。「勇なきものに災いあれ」とシラクの子イエス(聖書外典の中の集会の書の著者といわれる−訳注)は言っています。けだし、たくましい精神を所有することほど恵まれたことはありません。たとえ努力が失敗に終わったとしても、自分は力の限りを尽くしたのだと考えると満足が得られるものです。卑しい身分に生れた人が苦闘に耐えてついに正々堂々たる勝利を収めるとか、出血のために手足の自由を奪われたいくさ人が、勇気という足でなおも前進を続けるとかの光景ほど、われわれを奮い立たせる、気高いものはありません。
 ヒュ−・ミラーは自分にりっぱな教育を授けてくれた唯一の学校は「かん難と苦労という厳しいが、えらい先生方のいる万人に開かれた学校」であると言いました。努力をゆるめたり、あるいは、つまらぬ事を口実にして骨惜しみをしたりする人は、結局、必ず失敗します。どんな仕事でも、避けられないものと考えてこれに取り掛かれば、間もなく迅速かつ愉快に成しとげられるようになります。
サミュエル・スマイルズ『自立心』より(訳:大野 一郎)(星文社)